フライホイールモデルは、近年マーケティング業界で多くの注目を集めています。ただし自社でもフライホイールモデルの導入を検討しているものの、正しく理解できていない担当者も少なくありません。
そこで今回は、フライホイールモデルの概要や導入効果、実施する際のポイントを解説します。フライホイールモデルで成功した事例も紹介するため、実際に導入を進める際に活かしましょう。
フライホイールとは
米国のマーケティングソフトウェア会社であるHubSpot社によって提唱された概念です。シンプルな構造であるながら、エネルギー効率に優れていることから大きな注目を集めています。本来フライホイールは電車や自動車の車輪に使われる部品で、回転の速度が速くなるほど生み出すエネルギーが増すといった機械構造であることが特徴です。
このようなフライホイールの構造を参考に、ビジネスに落とし込んだモデルがフライホイールになります。営業やマーケティングなど各部署が協力して顧客の興味を惹き、信頼関係を築いて顧客の満足度を高める図式です。満足度の高い顧客は新規顧客を連れてきてくれるため、ビジネスを成長できます。
ファネルとの違い
従来のビジネスモデルであるファネルは、顧客からマーケティング、営業、カスタマーサポートの順で一方通行で引き渡されます。一見すると効率的なビジネスモデルのように感じますが、顧客にとって望ましくないことも多いです。実際に多くの企業では、期待した効果が得られなくなりました。
インターネットの普及により、既存顧客の紹介や口コミで購買プロセスに大きな影響を及ぼしているのが最大の原因だといわれています。残念ながらファネルモデルでは新規顧客を獲得しても、その顧客が新しい顧客を後押しする流れではありません。フライホイールモデルであれば、既存顧客が新規顧客を呼び込んでくれる構造を構築できます。
フライホイールの仕組み
車輪に使われるフライホイールは、回転速度・摩擦の大きさ・サイズで構成されています。フライホイールのエネルギー量は3つの要素から大きな影響を受けるため、これらを考慮してビジネス戦略を考えることが求められます。ここからは、フライホイールモデルの仕組みを確認していきましょう。
回転速度
フライホイールの回転速度を速めるには、もっとも影響力のあるビジネス領域に推し進める要素を加えることが求められます。具体的にはプログラムや戦略を指し、インバウンドマーケティングやフリーミアムモデル、販売プロセス、有料広告、リファラルプログラムなどが挙げられます。ここでは、質の高い成功体験を顧客に提供することが必要です。
摩擦の大きさ
フライホイールの回転速度を高めるために推力を加える際は、それに対する摩擦が起きない働きかけが必要です。ここで指す摩擦は、フライホイールの回転速度を落とす原因になるものです。具体的には、非効率的な業務プロセスやコニュニケーション不足、顧客とのミスマッチなどが挙げられます。これらの摩擦を防ぐには、チーム体制の再構築や顧客の解約防止対策などをおこなうことが必要です。
サイズ
回転速度が上がり、摩擦が最小限に抑えられるほど多くの既存顧客が自社商品やサービスを推奨してくれます。ただし、そもそもフライホイールのサイズが適切でなければ、回転速度や摩擦の効果を得ることはできません。ここで指すサイズとは、顧客の目標達成を的確に支援することです。カスタマーサービスやマルチチャネルでの対応、導入支援、ロイヤルティープログラムなどが挙げられます。
フライホイールの導入効果
従来のビジネスモデルに慣れている企業が、まったく異なるフライホイールを導入して担当者に負担がかからないか不安に感じる人もいるはずです。ただしフライホイールの導入により多くの効果を得られます。主な導入効果は、次のとおりです。
- 見込み客をうまく活用できる
- 柔軟な企業体制を構築できる
- 顧客との関係性を維持できる
見込み客をうまく活用できる
ビジネスを成長させるには、見込み客をいかに既存顧客にするかが重要なポイントになります。ただ商品やサービスが溢れる現代において、一方的に企業が情報発信したりアプローチしたりしても見込み客を獲得するのは難しいです。
フライホイールは、既存顧客が新規顧客に購買を促す循環モデルです。企業が情報発信するより、友達や第三者の評判や口コミが見込み客の購買決定に大きく影響します。見込み客の獲得が課題になっている場合は、フライホイールモデルが最適です。
柔軟な企業体制を構築できる
フライホイールを導入すれば、柔軟な企業体制を構築できる効果を得られます。一般的な企業では、営業やマーケティングなど各部署が分断されているのが現状です。これでは各部署で軋轢が生まれて、顧客との関係性にも悪影響を及ぼすことがあります。
このような問題を解決するには、柔軟に対応できる組織づくりが欠かせません。フライホイールは、各部署をまとめて一貫したサポートを提供することが可能です。顧客に十分なサービスを提供できるため、顧客満足度の向上につなげられます。
顧客との関係性を維持できる
既存顧客の評判や口コミもビジネス戦略に組み込めるため、顧客との関係性を維持できる効果が期待できます。従来のビジネスモデルでは、獲得した見込み客が再度顧客として商品やサービスを購入してくれることは少なかったです。
いわゆるリピート率が低い状態で、安定的な収益が見込めませんでした。ただしフライホイールを導入することにより、既存顧客との信頼関係を築ければリピートにつなげられます。新規顧客を獲得さえできれば、継続的な収益が期待できます。
フライホイールが必要な企業
フライホイールは、基本的にどのような企業でも通用するビジネスモデルです。情報が溢れる現代において、顧客の環境やニーズは日々進化しています。これまでは営業が直接顧客にアプローチするのが一般的でしたが、マーケティング部門からコンテンツを発信するほうが効果的な場合も多いです。新規顧客の獲得やリピート率の改善に課題を抱える企業であれば、フライホイールの導入がおすすめです。
Amazonのフライホイール成功事例
フライホイールで成功した企業事例にAmazonがあります。世界中で利用されているオンラインショッピングで、Amazonサービスなしでは生活が成り立たない人も少なくありません。フライホイールで成功するためにAmazonが実施した施策には、次のようなものが挙げられます。
- 低コストの仕組み化
- キャッシュフローの最大化
- 成長モデルへの投資
低コストの仕組み化
1990年にAmazonが登場して以降、急速に成長して大きなビジネスモデルに発展しました。そこに影響を与えていたのが、フライホイールだといわれています。フライホイールを導入するにあたって、まず実施したのが低コストの仕組み化です。顧客に対して低価格で購入できる商品を提供することで顧客満足度を向上させました。
実際に購入した商品が手元に届いて満足した顧客は、リピーターとなりAmazonで別商品を購入してくれます。その結果、商品全体の取引量が増えるため収益全体が上がりビジネスが成長します。また、Amazonでは顧客の要望に応じたサービスを提供するために豊富な商品が展開されているのも特徴です。豊富な商品量で競合他社との差別化に成功し、Amazonの成長を後押ししています。
キャッシュフローの最大化
Amazonのビジネスモデルはキャッシュフローの最大化に成功しているのも大きな特徴です。利益ばかりに目が行きがちですが、キャッシュフローを最大化すればさまざまな設備に投資して新しい事業を生み出すことができます。実際に新事業に参入して大失敗に終わった事例も多くあるのも事実です。
ただ、Amazonの企業文化のなかに少しでも可能性があるなら挑戦すべきである、という考え方があります。失敗事例が多くても、挑戦した中から1つでも成功事業があればすべてを取り返せると考えられているのです。挑戦に積極的な姿勢が、あらゆる分野で事業を成長させる結果を生み出しています。
成長モデルへの投資
Amazonはフライホイール効果を高めるために、成長モデルへの投資をおこなっています。数多くある投資の中には残念ながら失敗に終わった挑戦もありますが、新事業が生まれているのも事実です。ここでは、実際に成功した興味深い事例をいくつか紹介します。主な成功事例は、次のとおりです。
- Amazon GO
- Amazon Launchpad
- 物流業界への参入
Amazon GO
Amazon社が新しい試みとして誕生したのが、完全無人のデジタル店舗であるAmazon GOです。店舗の入り口でQRコードを読み取り、普段通り買い物を済ませます。本来であればレジカウンターでお金を支払いますが、Amazon GOでは会計の手続きは必要ありません。
専用ゲートを通過するだけで自動的にスマホ決済が行われるため、入り口を出た時点で買い物は終了です。万が一会計ミスや返品がある場合は、スマホアプリから払い戻しできます。スマホユーザーであれば誰でも利用できる画期的なサービスとして世界中から大きな注目を集めました。買い物における会計という手間を省いて顧客満足度を向上しています。
Amazon Launchpad
スタートアップ企業による新製品の市場投入を支援するプログラムが、Amazon Launchpadです。物語性を秘めた自由で斬新なプロジェクトが支援対象で、Amazonが市場試験やプロモーションを担うといった新しいビジネスです。顧客はその商品を簡単にインターネットで購入できます。
Amazon Launchpadのサービスを開始した目的は、プラットフォーム上の取り扱い商品を増やすことです。多くの商品を展開させることで、顧客の目的やニーズに応じて商品を提案できます。また他にはない革新的な商品が並ぶので、Amazonを利用した顧客の満足度を向上させられます。
物流業界への参入
Amazonでは、配送を大手物流業者に委託していましたが、物流業界への参入を検討しています。Shipping with Amazonと呼ばれる配送サービスで、本格的な進出準備を進めているのが現状です。
配送サービス事業が成功すれば他社商品の配送も請け負うことも想定できるので、今後大手物流業者としてビジネスが成功する可能性もあります。また各家庭への配送方法にドローンの活用を検討しており、ドローン配送技術の特許取得を進めています。新しい価値を提供することで、Amazon利用者の満足度を高めるのが目的です。
フライホイール効果を高めるポイント
フライホイールは、さまざまな分野で役立つビジネスモデルです。うまく導入できれば、ビジネスの成長へと役立てられます。ただし、導入方法ややり方を間違えると期待した効果が得られないことも多いです。フライホイール効果を高めるポイントには、次のようなものがあります。
- 新しい技術を取り入れる
- 失敗を恐れず行動に移す
新しい技術を取り入れる
IT技術は日々進化しており、新しい技術が生まれています。競合他社との差別化を図るためにも、新しい技術への関心を高めておくことが大切です。常にアンテナを張り情報を取得することで、新たな発想が生まれることもあります。また新技術への関心を深めるだけでなく、新たな事業に参入する際に積極的に取り入れることが求められます。
失敗を恐れず行動に移す
新技術への関心を深め、アイデアを生むだけではビジネスは成長しません。実際に行動することで初めて意味を成すため、失敗を恐れずに行動に移すことが大切です。失敗を恐れて守りに入る企業も多いですが、守りの姿勢では新しい事業は生まれません。
海外では失敗に寛容な企業が多いですが、日本は失敗を責める傾向があるので良いアイデアが生まれても行動に移さないことも少なくないです。技術革新が阻害されやすい環境であるため、企業が率先して挑戦しやすい空気感を作ることが求められます。
まとめ
インターネットが普及する近年は、企業が発信する情報より第三者の口コミや評判が購買意欲に影響を与えているといわれています。このような状況下で従来のビジネスモデルを続けていても、企業が抱える課題を解決することはできません。フライホイールの概念を確認したうえで、見込み客やリピーター客を取り込める施策を打つことが大切です。